うたかた日誌

旅行、読書、時々料理。

多様性について考えるとき vol.1

本の感想を書くのは思ったより難しい。「本棚を他人に見せるなんてそんな恥ずかしいことできない」、ってテレビで読書芸人が言ってた。本棚公表ぐらいならわたしはそこまで恥ずかしくないけど、その本を読んで何を感じたのか、っていう部分はすごくパーソナルなことだし、表現しようとするとすごく独善的になってしまうから、筆が全く進まなくなってしまいます。それに、次々と本を読んでもひとつひとつについて自分が考えたことをまとめられるほど心身に余裕がないのだなぁと発見しました。ということで、テーマを決めて関連しそうな本を列挙するスタイルにしてみます。

今回は、いま流行りのダイバーシティについて。最近お仕事で、多様性の実現について考えたり悩んだりすることが多く、興味がそちらに向かっているので手に取る本もそういうものが多いです。 

アイデンティティが人を殺す (ちくま学芸文庫)

アイデンティティが人を殺す (ちくま学芸文庫)

 

先日、飲み会の席で某国際機関で働いていたという方と喧嘩しました。たぶん相手は喧嘩とは思っていないだろうけれど、私は、これぞMansplainingの極み、と言えそうなその方の話し方にもともと不快感を覚えていて、「アイデンティティは統一されるべき」というご発言にブチーンと切れてしまったのです。私のポイントは、私は私、あなたはあなた、アイデンティティを同じにしようなんて間違っている、ということです。そんなことですぐ喧嘩腰になってしまう自分をあとで大変恥じました。が、潜在的に好戦的な私はいつまでもずっと、あの嫌味なやつをいつかギャフンと言わせてやりたい、と大変しつこく思い続け、アイデンティティについての疑問が頭の片隅にこびりついていました。そんな中で出会ったこの本。著者は、レバノン出身のカトリック教徒、レバノン内戦時にフランスに家族で移住して長くパリに住んでいるジャーナリストです。今の国際社会で起きている事件や風潮、宗教の名を借りた対立、文明や文化が共通化する一方で、分断され引き裂かれ軋轢を招く「アイデンティティ」。そういうものについて、自身のバックグランドや世界・宗教の歴史にも触れながら冷静で愛情のある洞察が加えられています。翻訳もとても読みやすい。

ロンドンに5年ほど住んで色々な人に出会ったとき、ひとつの都市、家族、一人のひとの中に多様なアイデンティティがあるのを実感し、そのことがうまくいっていたり、うまくいっていなかったりする場面も多々目撃しました。私自身、大好きなロンドンから日本に帰りたいと思ったのも、I don't belong to this placeという言葉が自分の頭にこびりついて反復するようになってしまったからだと思う。でも、これからの社会を生きる私たちは、自分自身や隣の人、社会の中にある多様な帰属を受け入れながら、「自然環境の多様性と同じように人間文化の多様性も尊重すべきである」そういう態度を共通のものとして持つ努力をしていくんだろうな。ちょっと反りが合わないくらいで喧嘩腰になってしまうのではまだまだだめなのでありました。

 

 

日本人にとって、「多様性」を受け入れて実現することは他の文化圏の人たちよりも難しいことなのでしょうか?元々の日本人の性格というものを私はよくわからないのだけど、現代の社会において、おそらく、答えはYesなのではないかと感じます。日本人は、よく自分たちのことを優しいといって自画自賛していると思う。でも、いわゆる「日本人の優しさ」は本当に優しさなのか。私にはまだわからないです。自分の意見を言わなかったり、他人がどう考えるかを「おもんばかって」行動する、そして日本人であればそのような行動をすべきとして他の「日本人」にも同じような態度を要求する、そういうことが本当の優しさだとは思えない。ブラジル出身の子に、「日本人って正直じゃないから怖いよね。」と言われたことがあり、本当にそうなのよね、と思ったことがあります。

日本人の性質は多様な価値観を認めるか、ということを考えるとき、第二次世界大戦中のことを振り返ることはとても大事なのではないかと思います。そこで、上官に死ぬことを命じられ、地元でも英雄として死んだことになって盛大なお祝いがされて、お前は既に死んでいるのだから今度こそ死ねと何度も言われて、それでも遂に生き延びて帰ってきた特攻隊員についてのお話。「兵隊さん」だった祖父のことが頭に浮かび、初めのうちは読み進めることがとても苦痛だったけれど、頑張って読みきりました。本書の中で、昭和天皇がなぜ特攻作戦のようなことまでしなければならないのかと疑問を口にされたのに対して、大日本帝国軍の将校が「特攻作戦というのは日本人の性質に合っている」と説明したという部分があります。特攻作戦が合うような日本人の性質とはなんなのか?これは、特攻作戦なんて戦争中の狂気であり、いまの社会からは遥か遠くのお話である、と片付けてはいけないことだと思います。

先日、イギリスから研修で日本に来ている友人に、日本では上司にチャレンジできないのね、と言われました。そうズバリと言われてちょっとショック。自分がイギリスで働いていたときの環境に比べても、確かにそういう傾向はあるかもしれない。意見をぶつけ合うことに価値を置きにくい、相手がどう考えているかを勝手に推測して行動する、理屈や合理性に拘るひとをバカにして精神論を語る。そのような社会は、多様性を潰すというだけでなく、これからもいつでも特攻作戦のように不合理に命を投げ出すことを共通の価値として突き進んでしまう、そのような危険すら孕んでいると言わざるを得ません。「日本人の優しさ」に甘んじるのではなく、本当の優しさと強さをいつも自問自答していきたいものです。

 

ここまで書いて疲れたので続きはまたいつか。関連図書をあげておきます。

Thinking, Fast and Slow

Thinking, Fast and Slow

 
春になったら莓を摘みに (新潮文庫)

春になったら莓を摘みに (新潮文庫)

 
なにかが首のまわりに (河出文庫)

なにかが首のまわりに (河出文庫)

 
アイデンティティークライシス?思春期の終わり?

アイデンティティークライシス?思春期の終わり?

 

 最後のは図書ではなかった!